2019年11月号 Vol.34 雅子皇后陛下の輝き

です。明治天皇へ相国寺から天納さ れた『動植綵絵』で、それをパリに持 って行きました。『動植綵絵』は、色 のついた動物、植物の絵という意味 です。 当館収蔵の『孔雀鳳凰図』は、私の 解釈では『動植綵絵』の準備段階と して描かれたものではないかと想定 しています。元広島の大名の浅野家 に伝来したものなのですが、2016年 に一般の眼に解れたのは、約90年ぶ りのことでした。鳳凰は想像上の鳥 で、良い政治が行われている時にの み現れる。ですから1度も現れてい ないのですね(笑)。孔雀に伴う富貴、 経済、政治が上手くいくようにとい う意味では、大名が持っているのに 大変相応しい絵でした。 新しいジャポニスムが起こればい いなと思いまして、私も「日本の美 総合プロジェクト懇談会」という政 府の委員会の委員をさせてもらって います。19世紀後半のフランスでは 日本美術を愛好する運動が起こって おりまして、その時は、浮世絵が中 心だったのです。今度は、もっと違 う伊藤若冲とか田中一村など、また 縄文から現代までの美術を展示しま した。浮世絵も人気があるのですが、 既に十分多くの方がご存知なもので すから、新しい、まだフランスの方々 に紹介できていない、特に若冲は、 フランス人に大変な反響を呼んでい ました。 前田 日本の画家、歌麿、北斎、若冲 が、ヨーロッパのアーティストに色 んな影響を与えたと思うのですが、 特にフランスにおいては、マネ、モ ネなどの印象派の画家に大変な衝撃 を与えたと思います。その事に対し てどう思われますか。 小林 19世紀というのは、大変面白 い時代で洋の東西を問わないと思う のですね。極東では、中国や日本など、 それまでの文化が成熟してきた時に、 文明、文化的な刺激を東から西へ。 ヨーロッパも成熟の極みに達した時 期に西から東へ。シノワズリーの中 国趣味からジャポニスムの日本趣味 へと、他の異なる文化圏から刺激を 受けて新しい文化段階に進んでいく というそういう時代だったと思うの です。日本も既に江戸時代から西洋 の影響を濃厚に受けているのですが、 その事を大きく意識してこなかった のです。けれども明治維新を迎える 前は、チャンネルが狭いです。狭い なりに刺激を強く受けて、いわゆる 蘭画、西洋的な遠近法とかボリュー ムだとかを現実的に表すような絵画 とか、浮世絵などにもかなり西洋的 な影響がありますね。だからこそ、 西洋近代の画家達が受け入れやすか ったのだと思います。だけど何か変 な遠近法にしてもどこか未消化なと ころ、逆にそれが、ヨーロッパの人 達には、エキゾチックな魅力、異国 趣味を満足させるようなところがあ ったのですね。それが、魅力的な日 もに、とてもにこやかで、明るい時 代を迎えたと思いますね。 皆様、実感されたと思うのですが。 当館には、後水尾天皇関係のものが かなり充実しております。『修学院 図屏風』というのが、ございまして、 これは高松宮家に伝わったもので、 一木一草に至るまで、当時上皇だっ た後水尾天皇、御自らが設計したと いう修学院のほぼ創建当時の状況を 描いた物です。この中に公家衆に囲 まれて、おそらく歌会をする様子の 図や、後水尾天皇、御自らが和歌を 御詠みになられる瞬間が描かれたも のです。 その他のコレクションでは、江戸 時代以降の日本の作品が充実してい ます。俵屋宗達・尾形光琳・酒井抱 一・神坂雪佳などの琳派、喜多川歌 麿や葛飾北斎に代表される浮世絵、 円山応挙や伊藤若冲など京都画壇、 近現代では菱田春草・横山大観・速水 御舟・上村松園・小林古径・東山魁夷 など多彩です。 前田 昨年ですが、日仏交流160周 年の記念事業という事で、伊藤若冲 の大作が展示発表されましたが、小 林館長もこのプロジェクトに参加さ れたとお聞きしていますが、その事 についてお話し下さいますか。 小林 「若冲―〈動植綵絵〉を中心に」 展(2018年9月15日(土)~ 10月14日 (日) 会場:プティ・パレ美術館)と 題した欧州初の大規模な若冲展でし た。宮内庁三の丸尚蔵館の若冲最高 傑作、『動植綵絵』を、相国寺蔵『釈迦 三尊像』と共にパリで紹介すること ができました。 江戸中期の京都で活躍し、その緻 密な描写と色彩で、日本国内でも絶 大な人気を誇る伊藤若冲。最高傑作 とされる『動植綵絵』(宮内庁三の丸 尚蔵館蔵)は、動植物の丹念な観察 を通じて得られた現実の姿と、空想 の世界を絵画として具現化した傑作 本の美術や文化であり、日本人の側 も丸ごとヨーロッパを理解するのは、 大変に難しいと思うのです。至らな い解釈が逆に西洋の人には、新しい 魅力と受け止められるのではないで しょうか。フランスに長い前田さん には、色々と感じることがあると思 いますが、私が感じる美術の世界で は、実りある誤解。そういうことが、 江戸、明治以降の現代に及んでいる のでは、ないかなと思います。 前田 ヨーロッパの方々は、フラン ドール派などの野鳥の精密な絵画と、 伊藤若冲の同じく精密に描かれた野 鳥画を比較してどう感じるのか。若 冲は、精密ではありますが、但し遠 近法だけは取り入れていないので西 洋の人は、とても見たことのない画 風に驚いたのではないでしょうか。 非常に興味深いところなのですが。 小林 例えば『群鶏図』という十数 羽の鶏を描くのですが、全く遠近法 がないですね。また、若冲のように 羽を精密に描く技法は、ちょっと日 岡田美術館 伊藤若冲「孔雀鳳凰図のうち鳳凰図」(部分)江戸時代中期 岡田美術館蔵 P●INT DE VUE JAPON P●INT DE VUE JAPON 58 59

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