2019年11月号 Vol.34 雅子皇后陛下の輝き

岡田美術館館長 小林忠(こばやしただし) 1941年東京生まれの美術史学者。 東京大学大学院修士課程修了、東 京国立博物館、学習院大学、千葉 市美術館などを経て、2013年よ り箱根の岡田美術館館長に。学習 院大学名誉教授、国際浮世絵学会 会長なども兼任。「北斎原寸美術 館 100%Hokusai!」(小学館)や 「日本水墨画全史」(講談社学術文 庫)など、著書・共著多数。日本美 術ファンの中で知らない人がい ないほどの美術史家、日本・東洋 の美術史研究誌『國華』主幹とい う硬派な肩書からは想像できぬ ほどユーモアたっぷりで朗らか な人柄と、とても穏やかな解説で 人気の高い小林氏、ファンが多い のも納得できます。学習院大学で は、30年間近く後進指導にあた ってこられました。陛下とは、お 酒をご一緒されたエピソードも おありだそうです。 展示面接約5000平方メートルの広大な館内に、美の殿堂に相応しい 華麗な展示作品が約450点揃う舞台は、その壮大さと華麗さに、誰し もが圧倒されてしまう。一度はゆっくり観たい、尾形光琳を始め琳派、 喜多川歌麿、葛飾北斎の浮世絵などが優雅に展示されている。 岡田美術館 東洋の美の結晶が一堂に集められ た岡田美術館は、箱根小 こ 涌わく 谷 だに にあり ます。小涌谷は、江戸時代、小地獄と 呼ばれ、噴煙上る荒野でした。この 地が生まれ変わったのは明治10年代 のこと。実業家たちによって温泉場 が開かれ、風情ある旅館やホテルが 建造されました。美術館は、明治時 代に存在した欧米人向けのホテル 「開化亭」の跡地(約6,300㎡)に建設。 全5階から成る建物の延べ床面積は 約7,700㎡で、展示面積は約5,000㎡に も及びます。この広い会場に、日本・ 中国・韓国を中心とする古代から現 代までの美術品が常時約450点展示 されています。そして、岡田美術館 の正面に飾られているのが風神・雷 神の大壁画「風・刻 とき 」。琳派の祖とい われる俵屋宗達の代表作「風神雷神 図屏風」が、平成の時代に日本画家・ 福井江太郎によって、大壁画640枚 の金地パネルに「風・刻とき 」という作品 として、壮大なスケールで描かれま した。12m×30mの大壁画の前には 100%源泉かけ流しの足湯カフェが 併設され、浸かりながらゆったりと した時の流れ、季節感を楽しみなが ら鑑賞することができます。箱根の 美術館の中でも名品の数々を収蔵す る岡田美術館館長小林忠氏にこの美 術館の魅力や日本の美意識について 国際的な視点で掘下げながらインタ ビューをさせて頂きました。 前田 プロフィールを拝見しました ら、学生時代には演劇や和楽器など 様々な分野で多才で色んなことをさ れていますね。 小林 高校、大学と映画が好きだっ たのですね。将来は、演劇か映画界 の方に行こうかと思っておりました。 東映とか松竹とか就活をしたのです が、先輩が助監督をしていた事もあ りまして、やはり美術の勉強が面白 くなりまして、結局大学院まで進み ました。 前田 専攻は主にどの分野でしょう か? 小林 日本の美術や、江戸時代の絵 画、浮世絵です。 前田 では、歌麿、北斎は、お得意な ジャンルでいらっしゃいますね。 小林 ええ、得意分野です。私ども が学生の頃は、日本美術といっても 平安時代とか室町時代で、江戸時代 をやる人は殆どいませんでしたね。 漢詩が描かれているような難しい所 に興味をもつ人が、ちらほらいるぐ らいでした。ですから人がいないよ うな道を歩いてきました。かなり有 利でした。 前田 今では、大人気ですよね。 小林 こんな時代がくるとは、思っ てもいませんでした。 前田 今、若い人の間で大変なブー ムですね。 小林 私の教え子の中でも美術を専 攻する人が多いです。 私の時代は、東大の文学部の美術 史学科というのがあるのですが、当 時は、学年に数人いるだけでした。 前田 新時代、令和の時代を迎えま して、岡田美術館のこれからの展望 と箱根における美術館のあり方をお 話し頂けますか。 小林 令和の時代に入りまして、そ のお祝いも兼ねまして、只今、金屏 風展という、日本は黄金の国であり、 金の装飾が古くから色んな絵画だけ ではなく、蒔絵とか金での装飾とい うものの文化的な伝統が深く残って きたものですから。当館収蔵の金屏 風約30点を、三階のフロアにそれぞ れのテーマごとに並べて新しい時代 の幕開けをお祝いしようと。ご覧い ただけた方には、大変に好評で賑わ っている状態です。 箱根は、東京という大都市からは、 距離がありますし、観光としてのお 客様のなかで、本当に美術館がお好 きな方が、お越し下さるところがあ ります。私は、この美術館に6年前に 館長職を頼まれまして、(都心から) 遠いという事では、不安に思ってい たのですが、逆に東京から遠い所と いうことで、東京は、コンクリート 砂漠であると言われるような無機的 な都市になってしまいましたが、こ ういう箱根山に入って、少なからず 自動車やバスで車窓を眺めて下さる。 よく、お茶の世界で露地という表現 がありますね。直ぐに入るわけでは なくて、露地を通ってその案内に導 かれて茶室に入る。日常の色んな生 活のアカから遠く離れて、箱根の山 道を辿って美術館にお越し頂くと美 術を鑑賞するには大変に良い環境で、 いらっしゃる方々の心が、美しい物 に触れやすい柔らかい心をお持ちに なれる、都心の美術館にはない鑑賞 の条件が整っていると思います。都 心の美術館にはない作品と場所をご 提供できるという、そのあたりの自 負もありますし、大変皆が協力して、 なるべくよそよそしいお迎えではな くて、心からのおもてなしが出来る ようにと思っています。美術館だけ でなく、館内の設備も大変整えてあ ります。庭には、様々な草木が四季 折々の花を届けていますし、昭和初 期のすき屋造りで作られていた、別 荘に使っていたものを改装して、池 に面した古めかしい和室で食事や喫 茶を楽しんで頂くとか、足湯があり まして、そこに座って壁画を見なが ら飲み物を楽しんでいただける。そ ういう、おそらく1日過ごして頂い ても退屈なさらないのではないでし ょうか。今後もこういった環境を維 持しながら私立の美術館ですから収 蔵品には限りがありますので、様々 なテーマで、魅力的な味付けをして ゆきたいと思います。 年に2回から3回、特別展示をして いますが、特に陶器など中国、朝鮮 半島、日本と充実しております。で すからやきものがお好きな方は、「も う、10回来ましたよ」といわれる方 もいらっしゃいます。そういう展示 が2階まであり、1階は、中国と朝鮮 半島のやきもので、2階が日本のや きものやガラス製品とかを展示して いますが、工芸ファンの方も2階ま でで十分楽しんでいかれる方と、3 階4階が絵画を中心に時折、蒔絵な ど織り交ぜながら最後の5階に小さ なお寺のような部屋に仏像や仏画、 仏教工芸品を展示する、そういう構 成になっていますが、最後までご覧 になっていかれる方もおられます。 前田 令和を迎え新天皇にどのよう な期待をよせていますか。 小林 令和になりまして、両陛下と P●INT DE VUE JAPON P●INT DE VUE JAPON 56 57

RkJQdWJsaXNoZXIy NDY3NTA=