2019年11月号 Vol.34 雅子皇后陛下の輝き

て色合いが微妙に変化するものです。 1920年代中頃からは色ガラスの作 品も増えますが、色ガラスを使う場 合も単色で用いることが多くみられ ました。技法的には、鋳鉄製の型を 使った型吹き成形およびプレス成形 によるものが主体です。「型吹き成 形」:鉄製の凹型に溶けたガラスを空 気圧で押し込むもの。「プレス成形」: 凹型と凸型を用い、凹型に流し込ん だガラスを凸型で押さえるもので、 これらの工程は機械化され、大量生 産に対応しています。 日本との関係、旧皇族朝香宮邸に ラリック 日本との関係では、1932年に旧皇 族朝香宮邸(現・東京都庭園美術館) のガラスの扉やシャンデリアなどの 製作を受注しています。正面玄関ガ ラスレリーフ扉は朝香宮邸のために 新たにデザインされました。翼を広 げる女性像は、型押ガラス製法で作 られています。一点ものであるとい うこととその大きさを考えると、ラ リックの作品の中でも貴重な作品と いえます。ラリックのガラスレリー フを正面にして左の扉は第一応接室 に、右の扉は受付外套室につながっ ています。 1945年に亡くなるまでラリックは 数多くの作品を発表しましたが、晩 年はリューマチが悪化してデッサン が描けなくなります。20年代から娘 のスザンヌがデザインを手がけたも のもラリックの名前で発表されたの で、作風に相当な幅が見られます。 事業は息子のマルクが継ぎ、近年ま でラリックの孫娘であるマリー=ク ロードが経営とアートディレクショ ンをしていましたが、マリーは1994 年にラリック社の株を売却。血縁者 による経営は終わりを告げ、現在、 化粧品や香水の容器を製作するポシ ェ社の傘下に入っています。 30年ほど前のこと、私はパリのマ ドレーヌ寺院近くロイヤル通りに面 したラリックの本店でルネ・ラリッ クの歴史について学んだことがあり、 今回彼の半生を振り返りながらとて も貴重な体験をさせて頂いたことを 実感しています。 箱根ラリック美術館では、ジュエ リーのコレクションが充実していて、 いちばんの人気がブローチ「シルフ ィード」。実物は高さ4センチほど のサイズですが、色鮮やかな七宝焼 きにダイヤモンドをちりばめた繊細 な美しさに魅了されてしまいます。 箱根ラリック美術館では、実際に 走っていたオリエント急行の 車両も展示 ガラス工芸家として大きな室内装 飾も制作していたラリック。その傑 作が、オリエント急行の車両です。 1929年に、パリとフランス南部を結 ぶ豪華列車「コート・ダジュール号」 が開通した際に、その車内装飾を手 掛けたのです。その後、オリエント 急行と名前を変え、2001年まで現役 で走っていた車両が、箱根ラリック 美術館に特別展示されている「ル・ トラン」です。室内に張り巡らされ たガラスパネルや天井の照明は、ル ネ・ラリックが68歳の頃の作品。こ の展示車両だけで156枚も使われて いるというパネルは、よく見ると裏 側に銀を塗った鏡面加工が施されて います。これで光を反射させること で、室内を明るく、広く見せる効果 があり、さらにこれまでにない贅沢 な空間の鉄道の旅を楽しめたのです。 現在、車両はカフェとして営業して おり、本格的なスイーツを味わうこ とが(1時間につき20名限定。当日 現地での予約受付)できます。 箱根ラリック美術館 ブローチ「シルフィード」1897-1899年頃 蝶のような羽と女性像を合わせた幻想的な姿のブローチ チョーカーヘッド「流れる髪の女」1898-1900年頃 女性の髪を、うねるような優美な曲線で表現したデザイン ラリックの独創的なジュエリー 作品の主なテーマとなったのは自然美。花や樹木、昆虫、動物、そして神秘的な女性たち。 卓越したデッサン力と構成力によりデザインされたモチーフは、あらゆる装飾の技法 を駆使してニュアンス豊かに表現されます。 ペンダント「白鳥」1897-1899年頃 七宝を駆使し、羽毛の一枚一枚までも立体的 に描いた、今にも動き出しそうな白鳥。 ペンダント/ブローチ「冬景色」1900年頃 パリの南西40キロにあるクレールフォンテ ーヌの冬の風景を、大胆な構図で切り取った デザイン。 ネックレス「ツバメ」1898年頃 交差して飛翔する4羽のツバメが1セットの デザイン。小ぶりの真珠が品良くまとめている。 髪飾り「二頭のトンボ」1903-1905年頃 トンボの羽の模様や透明感までも精巧に表現 した髪飾り。 ペンダント「フジ」1900-1903年頃 幹が螺旋状にうねりながら藤棚まで伸び、そ こから長短様々な房状の華やかな花が垂れ下 る。 ネックレス「蛇」1905-1906年頃 卵を抱く蛇の姿を彷彿とさせる。曲線の繋が りが、永続性や無限の広がりを生み出している。 P●INT DE VUE JAPON P●INT DE VUE JAPON 68 69

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